()トップページの本文()

掲載記事

PDFはこちらから

盲ろう者団体 宿泊拒否岡山の旅館
(朝日新聞 2004.2)


事故免責「一筆を」

市が2度指導 岡山県の盲ろう者らでつくる団体が昨年11月、岡山市栢谷(カイダニ)の温泉旅館「苫田温泉 乃利武」に約200人の宿泊を申し込んだところ、「設備が不十分で、障害者の方には使いにくい」などとして拒否されていたことが分かった。旅館は岡山市の指導を受け、宿泊受け入りの意向を示したが、条件として事故時の責任を問わないことを約束する文書を団体に求めている。

厚生労働省は「正当な理由がないのに宿泊を拒否すれば問題。自己責任に関する文書を取り交わすのも、旅館業法の趣旨に反する」と話している。

この団体は岡山盲ろう者友の会(武南俊一会長)。同会や予約手続きをした大手旅行会社によると、昨年11月16日、毎年、中国・四国の各県で持ち回りで開いている「中四国盲ろう者大会」の会場として、旅行会社の代理店を通じて1年後の予約を申し込んだ。だが、旅館側は「施設内に段差がおおく、非常時の誘導などの対応ができない」などとして断った。

同会はその後3回、旅行会社を通じて、盲ろう者一人に介助者2~3人や盲導犬がつくことなどを説明したが、盲ろう者自身による下見も含め、拒否されたという。

今年1月15日、同会の相談を受けた岡山市が旅館に立ち入り指導をし、「施設が不十分として宿泊を断るのは、正当な理由にはならない」と指摘。旅館側はよく16日に市に出向き、「全員が盲ろう者と思っていた」とし宿泊受け入れを伝えた。

だが、同会が方針転換の理由を文書で回答するよう求めたところ、旅館側は1月30日付で、施設構造が「目の不自由なお方には、ふさわしくない」としたうえで、「万が一不慮の事故、負傷者が発生した場合、当館は一切責任をもてませんので、一筆いただいた上でご利用を」と求めてきたという。同会から文書の内容を知らされた市は再度、立ち入り指導をし、一筆を強制すると旅館業法違反になると伝えた。同会は2月初め、旅館に「障害者だから」という理由で宿泊を断り、下見さえも断られたことは理解に苦しみます」「私たちだけにそれ(文書)を要求すると、人権感覚が問われることになる」とする武南会長名の文書を送り、抗議した。

乃利武の則武章二社長は「増築を重ねたため、階段や段差がかなりあってお客様の安全を第一に考えてお断りし、「一筆」をお願いした。差別とは思わない。障害者にふさわしくない施設ではなく、断る方が親切だと思う」と話している。

人権問題について多数の著書がある林力・九州産業大元教授の話 昨年あった熊本県でのハンセン病元患者への宿泊拒否問題と、根底にあるものは同じだ。人権という考え方が広がった一方で、命の尊厳への無感覚が根を張ってきている。そういう時代を象徴する出来事といえる。ただ、旅館の責任を追求するだけでは解決にならない。私たち自身の問題と受け止め、社会全体で考えていかなければならない。