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掲載記事

読売新聞 2009.2.9

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「障害者自身が水先案内」

【制度改革推進会議】

障害者政策の改革案を検討するため、内閣府が先月設置した「障がい者制度改革推進会議」。委員の多くが、障害者団体の代表となっているのが特徴だ。障害者が自立できる社会をどのように実現するのか。委員が胸の内を語った。(梅崎正直)

*過半数は当事者
「今日は歴史的な日」。1月12日に開かれた第1回会議の冒頭、25人のメンバーを前に、福島消費者相は語った。うち14人は、障害者の社会参加を目指して活動してきた障害当事者だ。
  その一人の障害者インターナショナル日本会議事務局長、尾上浩二さん(49)は脳性まひ。「歩けない」という理由で、養護学校に入学させられた。2年間入った施設には私物を置けず、好きな本も取り上げられた。
  人生が変わり始めたのは中学生の頃。「教師、他の生徒の手を借りない」という念書を書かされ、大阪市内の普通中学へ入学したが、級友たちがおぶって移動を助けてくれた。初めて親以外と心斎橋へ遊びに行き、世界が広がった。大学では6歳年上の同じ脳性まひの男性に出会う。「障害者が町に出ると、差別が向こうからやってくる。自己主張せなあかん。」その言葉に促され、障害者の運動に加わるようになった。
障害者自立支援法に反対して国会に座り込み、過労で倒れたことも。「それもムダではなかった。誰もが排除されない社会を作るため、今回の会議で我々障害者が水先案内人になる」

*二重の障害を克服
同じく会議メンバーの門川紳一郎さん(44)は、全国盲ろう者協会の理事。視覚と聴覚に障害を持っている。
盲学校小学部3年生のときに、自分だけ教師と
一対一の授業に。「聞こえないことが問題なんだ」と意識した。「二重の障害を抱えるのは自分だけ」と孤独だった高等部時代、福島智さん(現東京大教授)が盲ろう者として初めて大学進学したのを知る。衝撃を受け、勇気がわいた。自身も大学へ進み、盲ろう者の社会参加を進める運動に取り組んだ。
通訳者が両手の甲のを指でたたいて伝える「指点字」を用いるため、会議の場では両手がふさがり、資料を参照することができない。
「ゆっくり休憩を取りながら進めるようお願いしたい」と話す。多様な障害を持つ人たちのコミュニケーションをどう保障するか。会議の場が、今後目指す社会のモデルとなる。「障害の種別を超えて。良い制度を作れるよう努力したい」

*参加もれた団体も
会議メンバーには、身体、視覚、聴覚、精神、知的と各障害の代表が名を連ねる。今夏までに、障害者自立支援法に代わる新制度など、重要課題の基本方針をまとめる予定だ。
一方で、会議への参加を求め、かなわなかった団体、グループもある。その一つの日本発達障害ネットワークは、「発達障害の子どもは小中学校に6.3%、68万人も在籍している。支援を定めた法律もある。会議に加えるべきだ」(山岡修副代表)と、会議発足後も訴え続けている。2日に開かれた第2回会議でも、「発達障害、難病、高次機能障害の代表がなぜいないのか」との発言があった。
福島消費者相は「意見を聞いてほしいとの要請をたくさん受けている。会議メンバー以外からのヒアリングを実施したい」と前向きな姿勢を示すが、多様な障害者の期待と要望に応えるのは容易ではない。「障害当事者による制度改革」は緒に就いたばかりだ。

障がい者制度改革推進会議
  昨年度末に設置された推進本部(本部長・鳩山首相)の下部組織。①廃止される障がい者自立支援法に代わる新しい福祉サービス制度づくり②国連の障害者権利条約批准に向けた、差別禁止、虐待防止に関する法律の策定③人権を守る観点からの障害者基本法の見直し④教育、雇用、バリアフリーなどーが重要課題とされる。

(写真は机についている尾上さんの正面の写真と左にぴんぼけした福島消費者相)
「第1回推進会議で、福島消費者相(手前)のあいさつを聞く尾上さん(東京・霞ヶ関で)」

*会議のインターネット配信(内閣府)のホームページ
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/kaikaku.html#kaigi

夕刊讀賣新聞 2010年(平成22年)2月9日(火曜日)より