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熱いぜ!盲ろうドラマー


目と耳が不自由な松江市在住のドラマー、安食利行さん(53)が11月、大阪市天王寺区で演奏会を開催する。独自のレッスン法と特訓でリズムの取り方をマスターし、「日本で唯一」の盲ろうドラマーとして中国地方で軽快なスティックさばきを披露してきた。近畿での公演は初めてで、「『努力すればできないことはない』と伝えたい」と意気込んでいる (浅野友美)

安食さんは小学校の頃、病気で聴力を失った。松江ろう学校(松江市)で学び、卒後後は地元の福祉工場に就職。20歳を過ぎた頃、今度は目が見えにくくなり、弱視と診断された。今では光を感じる程度しかできず、触手話などでコミュニケーションを取る。

そんな安食さんの心の支えが音楽だった。10代の頃からロックなどが好きで、メロディーなどは聞こえないが、ヘッドホンを付けて大音量にし、振動となって体全体に伝わるリズムを感じ取っていた。

ドラムとの出会いは2007年5月。加入している「しまね盲ろう者友の会」(松江市)が翌08年11月に中四国地方の障害者らの交流イベントを開くことになり、演奏に挑むことにした。リズムを取りやすく、たたけばストレスや悩みが吹き飛ぶ爽快感がドラムを選んだ理由だった。

ただ、楽器を触るのは初めて。手話通訳士の同伴で地元の音楽教室に通い始めた。練習は月3回で、1回30分ほど。最初は模造紙に大書きされた音符を見てリズムを覚えようとしたがうまくいかなかった。

そこで、リズムを狂わせることなく、一定の間隔を保って演奏できるようにするための「おすし、おすし」や「食べたい、食べたい」と唱えながらたたくと、動きがスムーズに。勤務の合間や自宅でも菜箸をスティック代わりに練習を重ねた。

1年半の特訓を経て、迎えた本番ではYUIさんの「CHE.R.RY」などを披露。会場に響く拍手と歓声を肌で感じ、経験したことのない充足感に包まれた。今やレパートリーはAKB48など十数曲になり、公演は松江市や鳥取県米子市など計6回に上る。

演奏時には音楽講師が安食さんの後ろに立ち、肩をたたいて拍子の取り方を教えるが、それ以外は普通のドラマーと変わらない。「全国盲ろう者協会」(東京都新宿区)は「盲ろう者のドラマーは聞いたことがない」と驚く。

活動ぶりを知った大阪市天王寺区のNPO法人「視聴覚二重障害者福祉センターすまいる」の門川理事長(50)が11月3日に同区で開催する「わくわくふれあいフェスタ」に出演を依頼した。

目と耳が不自由な門川理事長は「とても難しいことに挑戦し、勇気づけられる。ぜひイベントを盛り上げてほしい」と期待する。安食さんは「周囲の支えで、ここまでくることができた。今後は全国を回って演奏を披露し、同じ境遇の人たちに元気を与えたい」と話す。

イベントは3日午前10時から同区民センターであり、安食さんは午後3時頃から3曲を演奏。入場料は当日1800円など。問い合わせは同NPO(06・6776・2000)