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DbI Review 51号(2013年7月)
「障害と開発に向けて」
アジア太平洋地域コンサルテーションの報告


国際連合(以下、国連)は毎年、国連総会に先立ち、様々な議題で国連ハイレベル会合(UNHLM)を開催します。今年のUNHLMは「障害と開発」をテーマに2013年9月23日、ニューヨークで開かれます。

国連には多くの条約、宣言、その他、国際的に合意された開発目標がありますが、障害とその独自のニーズについてふれているものはほとんどありません。これはミレニアム開発目標(MDGs)にも言えることです。国連において、2015年とその後に向けての開発アジェンダに関する議論がすでに始まっています。これらの議論の全ての局面において、障害者が認識されるべきであることは疑いの余地がありません。2013年のUNHLMに備えるため、アフリカ、ヨーロッパ、南アメリカ、そしてアジア太平洋地域で地域コンサルテーションが組織されています。アジア太平洋地域のコンサルテーションは「アジア太平洋2015年以降の障害インクルーシブな開発課題に関するコンサルテーション」をテーマに、2013年5月15~16日、タイのバンコクにある国際連合会議センターで行われました。このコンサルテーションの成果は2013年9月23日のUNHLMに提出されます。今回のコンサルテーション会議のご報告ができることを嬉しく思います。

アジア太平洋地域コンサルテーションの過程にはアジア太平洋地域の政府高官、障害者団体、市民社会団体(CSO)、そして国際組織が関わりました。世界盲ろう者連盟(WFDb)はCSOの一員として、この会議に正式に招聘されました。日本(すまいる)からは門川紳一郎氏がアジア地域のWFDb代表として、出席しました。今回の会議の目的には2つの要素があります。1つ目はアジア太平洋地域の政府と関係者が障害インクルーシブな開発について意見を取り交わす機会を提供すること。2つ目は9月にUNHLMに提出される成果文書案にインクルージョンに関する地域のインプットを盛り込むこと。今回のコンサルテーションの過程はオーストラリア政府、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)、世界銀行の協力により、タイ王国政府によって主催されました。

<コンサルテーションの過程>

コンサルテーション会議の1日目では、ESCAP事務局によって準備され、事前に参加者に配布された「バンコク・ビジョン草案」と呼ばれる作業報告書について議論しました。1日目、全ての参加者、WFDb、世界ろう連盟(WFD)の議論が集中したのはビジョンの草案です。

まず、指摘しなければならないのは、この会議では参加者全員に発言の機会は与えられていましたが、最終的な文言についての議決は政府高官のみによって行われることです。障害のある参加者が自分たちの独自のニーズについて訴えるだけではなく、政府に「障害や困難を抱える自分たちの声」を採用させるために他の団体と交渉し、最終報告書における考えや意見の総意を形成することが重要でした。

当初の「バンコク・ビジョン」の議論にはユニバーサル・デザインとアクセシビリティを規定する宣言がありました。「物理的環境、公共交通機関、知識、情報とコミュニケーションのインフラ、そして公共サービスの全てにユニバーサル・デザインを組み込み、そしてそれらを保障する。」

この当初の宣言には満足できませんでした。というのも、盲ろう者の情報とコミュニケーションのニーズを満たしているとは感じなかったからです。情報とコミュニケーションの困難に直面している「声なき人たち」のために門川氏は立ち上がり、1日目の討論において、以下の重要な指摘をされました。
●障害者権利条約(CRPD)の第21条では表現および意見の自由が保障されている。
●建物や交通などのように目に見えるものと、情報やコミュニケ―ションなどのように目に見えないものの2つの異なる局面がアクセリビリティにはある。
●CRPDの第2条では、手話はろう者の言語であると定義され、アジア太平洋地域、ならびに世界に、地域で合意にいたった障害インクルーシブな一連の開発目標を初めて提示するインチョン戦略で手話の重要性が指摘されている。
●情報とコミュニケーションのアクセシビリティを保障するためには適切な財政支援が必要である。(門川氏は今回の会議への出席に際して、AusAIDの資金援助について謝意を述べました。)

門川氏はWFDとインクルージョン・インターナショナルの代表と共にオリジナル草案、門川氏の提案、その他の討論に基づいた共同宣言を作成しました。

2日目には1日目に作成された2つ目の草案を見直しました。

2つ目の草案報告には以下の宣言が盛り込まれていました。 「物理的環境、公共交通機関、知識、情報、およびコミュニケーションへのアクセスを高める。」 「物理的環境、公共交通機関、知識、情報とコミュニケーションのインフラ、そして公共サービスの全てにユニバーサル・デザインを組み込み、そしてそれらを保障する。福祉機器の使用を促進する。合理的配慮を提供する。盲ろう者、ろう者、難聴者、その他の障害者によるコミュニケーションを可能にするために、サービスとテクノロジーへのアクセスを強化する。」

またしても2つ目の草案の宣言(上記)にも提案が反映されていませんでした。

門川氏は自分たちの提案と共同宣言を強調しながら、発言を続けました。さらに討論が続けられ、門川氏とWFD代表で提案を練り直し、最終的にはCSOからの支持を得ました。タイ王国政府上院議員、障害者権利条約委員会のモンティアン・ブンタン氏も支持者の1人でした。

議論となった条文は以下のように作り変えられました。

「物理的環境、公共交通機関、知識、情報、およびコミュニケーションへのアクセスを強化する。ユニバーサル・デザインを組み込み、福祉機器の使用を促進し、合理的配慮を提供することによって、物理的環境、公共交通機関、知識、情報とコミュニケーションのインフラ、公共サービスの全てのアクセシビリティを十分に保障する。手話、触覚コミュニケーション、点字、わかりやすい方法、その他を提供することで、盲ろう者、ろう者、難聴者、その他の障害者によるコミュニケーションを可能にするために、サービスとテクノロジーへのアクセスを強化する。」

会議の終了時には、門川氏の最終意見、様々な地域の政府、団体、障害からの異なる修正が盛り込まれた最終報告はバンコク・コンセンサスとなり、2013年9月、ニューヨークで開かれるUNHLMに提出されます。

<バンコク・コンセンサス>

インクルーシブな開発のための行動を求めるために、コンサルテーションの文書では以下のことを規定しています。

1 貧困を削減し、仕事と雇用の可能性を高める。
2 政治的プロセスと意思決定への参画を促進する。
3 物理的環境、公共交通機関、知識、情報とコミュニケーションへのアクセスを高める。
4 社会的保護を強化する。
5 障害のあるこどもの早期介入と教育を拡充する。
6 ジェンダーの平等と女性のエンパワメントを保障する。
7 障害インクルーシブな災害リスク削減と運営を保障する。
8 障害データの信頼性と比較可能性を向上させる。
9 国内法と障害者権利条約の整合性をとりつつ、条約の批准と履行を加速させる。
10 サブ地域、地域、地域間の協力を進める。

CRPDの過程で生まれた有名なスローガン、「私たちのことを私たちぬきに決めないで」がバンコクで実践的に実行されました。