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盲導犬 目にも耳にも
全盲ろう男性 初の相棒 手の動きで意思疎通

目が見えず耳も聞こえない門川紳一郎さん(51)(大阪市北区)が国内の「全盲ろう者」で初めて盲導犬の使用を認められた。盲導犬には口頭で指示を出すのが一般的だが、耳が聞こえない門川さんは発音が難しく、手による指示も併用して意思疎通が図れるよう、ともに訓練に励んできた。門川さんは「行動範囲が格段に広がった。同じ境遇の人たちに勇気や希望を与えられたら」と話す。(浅野友美)


米国友人の姿

「ストレート・ゴー」。4月中旬、大阪市内の歩道で、門川さんが手を前方に差し出して声を掛けると、雄のラブラドルレトリバー「ベイス」(2歳)がゆっくりと歩き出した。「スムーズに導いてくれます」。門川さんは笑顔を見せた。

門川さんは生まれつき弱視で、光をかすかに感じる程度しかできない。中学1年の頃には幼少時の病気が原因で失聴した。1999年にNPO法人「視聴覚二重障害者福祉センターすまいる」を設立。同法人理事長として盲ろう者の支援活動に取り組んでいる。

移動時には白杖を用いるが、障害者のリハビリテーションを学ぶため米国に留学中の20歳代のとき、全盲ろうの友人が盲導犬と暮らす姿がずっと印象に残っていたという。自宅近くのJR大阪駅が大規模改修され、構内で迷うことが増え、盲導犬の使用を決意した。


協会 初の試み

社会福祉法人「全国盲ろう者協会」(東京)によると、盲ろう者は全国に約1万4000人おり、多くは白杖や介助者を伴って移動している。門川さんの依頼を受けた盲導犬の育成団体「日本盲導犬協会」(同)も、全盲ろうの人向けの育成は経験がなかった。

耳の障害のためよろけることがある門川さんを支えられるような大柄なベイスをパートナーに選び、昨年5月から横浜市内の施設で訓練を開始。盲導犬には通常簡単な英語で命令を出すが、門川さんは発音が不明瞭でベイスが聞き間違える恐れがあり、手の動きで指示を伝える方法も覚えさせた。


目標は大阪―東京

今年2月からは門川さんとの共同訓練も実施。門川さんは犬と触れ合った経験がほとんどなく、当初はベイスの足を踏んでしまうのではと離れすぎていたが、訓練士の田中真司さん(34)の助言で近づくなどして次第に息が合うようになり、3月に盲導犬の使用認定を受けた。

田中さんは「門川さんの意欲と、ベイスの献身的な姿勢があったから訓練を乗り越えられた」と振り返る。門川さんはベイスと東京まで移動するのが目標といい、「頑張れば生活を充実させられることを示していきたい」と話している。


育成数不足 資金の壁

盲導犬の数は不足しており、育成のための環境設備が課題となっている。

盲導犬は「日本盲導犬協会」など国家公安委員会が指定する国内11の育成団体の訓練を受ける必要がある。使用者との意思疎通など規則が定める基準をクリアすれば、認定される。

日本盲人社会福祉施設協議会によると、盲導犬の実働頭数は去年3月末時点で984頭。視覚障害者は公道を歩く際に白杖を持つか盲導犬を伴うことが道路交通法で義務付けられており、全国盲導犬施設連合会などの調査(2011年)では盲導犬の利用希望者は3000人~4000人いる。

盲導犬が足りない大きな原因は資金不足だ。1頭の育成に必要な経費は500万~600万円とされるが、費用の大半は寄付で賄われており、資金を確保できない育成団体もある。