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メディア情報

日本初、全盲ろうの盲導犬ユーザーとなって ―門川紳一郎さん―

2016年11月27日(日)放送

出演:門川紳一郎さん
聞き手:高山 久美子

高山:特集です。今年春、視覚と聴覚両方に障害がある「全盲ろう」の男性が、初めて盲導犬の訓練を終え、盲導犬ユーザーとして新たな一歩を踏み始めました。

全く見えず、聞こえずの人が盲導犬を使うのは、日本では初めてのことです。

今日はスタジオにその門川紳一郎さんと盲導犬のベイス。

私の質問を指点字で門川さんに伝えてくれる通訳の宮崎由美さんにお越しいただきました。

門川さんは1965年、大阪生まれの、今、51才でいらっしゃるんですね。

生まれつき弱視でしたが、4歳の時に耳が聞こえなくなって、今の視力は、光覚、光を感じる程度です。

大阪市立盲学校を卒業し、大学に進学。

大学卒業後の1989年、アメリカに留学して、ヘレンケラー・ナショナルセンターや、聴覚障害者を対象とするギャローデット大学で、手話やリハビリテーションを学び、さらに、ニューヨーク大学で修士号を取得されました。

そして、帰国後の1999年、盲ろう者がつどい、情報交換できる拠点としてNPO法人すまいるを大阪に設立されました。

高山:門川さん、アメリカでは、目が見えなくて耳が聞こえない盲ろう者が盲導犬を使うという例が多くあるそうですが、日本では初めてのことなんですよね。

門川:そうみたいですね。日本で僕が盲導犬と歩いてみたいなと思うようになって、いろんなところに訓練をお願いしてみたんですけど、ほとんどのところがあまり好意的ではないというか、まあ断られたと言ったほうがいいんですかね、特に関西中心にいろんなところに当たってみたんですけど、駄目でした。

高山:断られても、盲導犬を使いたいという望みがあったわけですよね。

門川:以前は、白杖を使ってですけど、いろんなところに単独で出かけて行っていたんですが、視神経萎縮なんですけど、だんだんと単独での歩行が難しくなっていったんですね。
もともといろんなところに歩いて出かけていくのが好きで、じっとしてるのが嫌いと言ったほうがいいか、歩けなくなるとストレスになるし、どうしたらいいのかなと考えていて、そんなときに思い出したのが、アメリカで出会った友人バピン。彼は全く見えない、全く聞こえない全盲ろうなんですが、盲導犬を使ってマンハッタンを歩いていたんですね。彼のことを思い出して、盲導犬と歩いてみようかな、何とか訓練をさせてもらえないかなと考えるようになったんですね。 でもどこに当たっても、あまり好意的でない。
そんなときに日本盲導犬協会を紹介してもらったんですね。

高山:はい。その訓練を担当されました日本盲導犬協会の訓練士、田中真司さんのお話です。

(田中さんインタビュー音声)

田中:難聴だったり、ほとんど聞こえづらいとかという方は何人か盲導犬ユーザーではいるんですけど、今の日本で全く聞こえない人というのは門川さんだけだし、これまでの歴史でも、おそらく1人いたか、いないかぐらい。そういう意味で、安易に受けちゃって、結果、けがをしちゃうとか、事故に遭っちゃうとか、他人に危害を加えちゃったりとかということは避けなきゃいけないので、二の足を踏んでしまうというのもあったんじゃないかなとは思います。

高山:受け入れようという、その決め手となったのは何だったんでしょうか。

田中:そうですね。一番はやっぱり門川さんの人柄というか、人間力を応援したいなというふうに、面接をして話をしてる中で感じたことと、門川さん自身が今までずっと1人で白杖を使って単独歩行の経験がすごく豊富だったというのもあって、気持ちと技術というのが兼ね備わってたというか、門川さんだったらできるんじゃないかなというふうに思ったというのが一番ですね。

(田中さんインタビュー音声おわり)

高山:門川さん、いかがですか。

門川:はい、僕を受け入れてくださった日本盲導犬協会の皆さんに本当に感謝しています。 そして田中真司さん、彼は盲ろう者と接したこともなかったのに、訓練をしようと、彼のその勇気にも頭が下がる思いですね。本当にうれしいです。

高山:実際に訓練が始まってからというのは、ご苦労もあったんじゃないかなと思うんですけれど。

門川:うん、コミュニケーションの面でもいろいろとあったかと思いますね

ところが、田中訓練士との間でいろいろと工夫をしながら、最後はもう阿吽の呼吸といいますか、何とかまあうまく進めていくことができるようになったかなあと。これもやっぱり、田中さん自身も彼なりに工夫をしてくださったおかげだと思いますね。

高山:犬に対して訓練で指示が出せるかということについては、不安ではなかったですか。

門川:実は発音もすごくしづらいんですね。こんな僕が犬に対してちゃんと指示が出せるんだろうかと、すごく不安だったんですね。でも、2月9日の朝だったかと思うんですけど、神奈川訓練センターで、田中さんから、ベイスに「カム」と呼んでみてと言われて、ベイスに向かって「カム」と言ったら、ものすごい勢いで飛んで来たのには驚きましたね。

すごくうれしかったですね。僕の声でも通じるんだなと。

訓練はこれからも続いていくんですよ。一応共同訓練は終了したわけですけど、でもそのあとも月に1回のペースでフォローアップということで、盲導犬とちゃんと歩けているかとか、盲導犬の様子が問題ないかとか、そういったことを訓練士の人が大阪とか僕が行くところにいてくれて、チェックしたりしてくれるんですが、これがあるから、うまくいってるんじゃないかなと思っています。


高山:1カ月に1度はそうやってフォローアップが入るということなんですね。 それがあってこそ、門川さんも不安なことも解消したりできるんでしょうかね。

門川:はい。あとは僕があの困ったことがあったり、教えてほしいことがでてきたりするんですが、そういうときはメールで質問をしたりすることもよくあります。 それに対して田中さんも、タイムリーに答えてくれるので、すごくうれしいですね。

先日、11月の5日と6日に中四国盲ろう者交流会が島根県の出雲であったんですが、そこに田中さんも別件で行かれてて、僕も参加したんですね。そこでもほんの少しでしたが、フォローアップということで、ベイスと歩いているところをチェックしてもらいました。

今は僕の声をベイスがあの覚えてくれていて、下手くそな指示でもちゃんと聞いてくれていると思いますね。

共に暮らす中で、僕の声とかには慣れてくれてるんでしょうね。
よく言うことを聞いてくれてるので、ほっとしています。

高山:今、率直に言って、ベイスとの生活、いかがですか。

門川:歩行面ではすごく助かっています。すらすら歩けるようになりました。

生活自体は僕は独り暮らししていますから、ベイスがいると、何というか、家族がいるなあって。
あとはベイス、まだ2歳と7カ月ですから、まだすごく甘えるんですね。
そこはやっぱりかわいいなと思いますね。

高山:そうですか。

門川:ただ、まだね、排泄のタイミングがちゃんとつかめてなくて、特に午前中に限って失敗することが多いんですね。

朝起きてから最初の排泄は問題はないんですけど、その次の2回目のタイミングがまだつかめてなくて、午前中に失敗することがあるんですけど、でもベイスも生き物だから、うんちとかしたいときにしちゃいますよね。

歩いてるときにされると困るなとは思うんですけど、最近では、いつうんちしてもいいように、うんちを取る袋をポケットに入れて歩くようにしています。

高山:家族が増えるというのはうれしいことですね。

門川:そうですね。なんかにぎやかになるときもありますね。よくあのー遊んでほしいと言ってきて、じゃれてくるんですね。部屋の中で遊んでたこともあります。

今は家の中でもだいぶ落ち着いてきてると思いますけど。
やっぱり歩行面では助かります。
これまでは白杖での歩行で、なかなか前へ進めないし、そのまっすぐ歩けなくて、特に右に曲がってしまうことが多かったんですけど、今はベイスでスラスラと歩けるようになり、大阪駅とか新大阪の駅とか、そこをベイスとだったらスラスラと行けるので、すごく助かります。

歩きやすくなったということは、ストレスも少なくなったかなと。
で、もっといろんなところを歩いて行けるかなと。

なので、世界が広がったと言ってもいいと思いますね。

高山:盲導犬を持っている人というと、普通は視覚障害単一だと思ってしまいますよね。

門川:そう、そう、そう。

高山:だからよく誤解されると思うんですね。

門川:そこはもうどうしようもない。難儀してますけどね。
よく声かけてくれるようになったんですね、ベイスと歩いてると。
でも僕は、うん、気がつかないというか、相手にしたら無視されたと思っちゃうかもしれないですけど、聞こえないので、どうしたらいいか。
もう僕のことを皆さんに覚えてもらうしか、解決方法はないのではないかなと思います。

僕はこの日本には1人しかいないので、1人いるこの僕を皆さんが覚えてくれたら問題解決。

高山:(笑)

門川:大丈夫と思いますね。

高山:なるほど、そうですね。

門川:(笑)

高山:もっとたくさん歩いて、盲ろう者でも盲導犬持ってるんですよということをアピールしていただいて。

門川:うん。

高山:新しい生活が始まって7カ月が経ちましたね。 これからベイスとどんなことをしていきたいという希望はありますか。

門川:そうですね、もっといろんなところにベイスで歩いて行けたらいいなと思っています。

実はつい先日、沖縄に行ってきたんですけど、ベイスは初めて飛行機に乗ったと思います。

高山:門川さんはニューヨークに行ったり、もうあちこち日本全国飛行機にも乗って行ってらっしゃいますよね。

門川:いつかアメリカにベイスと一緒に行けたらいいなと思っています。

高山:盲導犬を持つきっかけになったアメリカのお友達にもベイスを紹介したいですよね。

門川:そうですね。いつか引き合わせたいです、ですね。向こうの犬とも引き合わせたいですね。

高山:盲ろう者のかたって、そのおうちの中に閉じこもっていらっしゃるかたもまだいらっしゃいますよね。なかなか1人で歩行するのも難しいというかたもたくさんいらっしゃると思うんですよね。

門川:そうですね、それはそうだと思います。
それはあの盲ろう者に対して、どのように歩行の訓練をしたらいいのかということを、訓練センターなどの人がわからなくて、まだ盲ろう者に対しての専門的な歩行訓練士というのが、この日本にはいないんだと思うんですね。

僕自身も、大阪のライトハウスがあるんですけど、そこで生活訓練とか受けたいなと思って、訪ねたことがあったんですけど、できないと言われたことありましたから。

僕が白杖歩行について勉強させてもらったのは、アメリカに行ってからになります。 アメリカにいる歩行訓練士の人にいろいろと教えてもらいました。


高山:そうでしたか。門川さんが盲導犬を持ったことで、盲ろう者の社会参加の可能性というのが広がったと思うんですよね。

門川:広がればいいなと思いますね。

高山:門川さんのお友達で、自分も盲導犬を持ってみたいというかたも、もしかして現れているんじゃないですか。

門川:ぼちぼちといます。まあ盲導犬は選択肢の1つにすぎませんけどね。

1度チャレンジしてみていいんじゃないかと思いますが、でもその前にやっぱり白杖でね、単独歩行ができることが大きな前提になるかと思うので。

高山:盲ろう者に対しての白杖歩行の指導もね、方法が確立するといいですよね。

門川:そうなってほしいと思います。

高山:視覚障害者の世界でこれまで培ってきた盲導犬歩行のことというのが、今回の門川さんの挑戦にも生きていると思いますし、大きな意味があるんじゃないかなというふうに、私は感じました。

門川:ありがとうございます。

僕ができたということは、ほかの盲ろうの人だってチャレンジしてみたらできるかもしれないですから、ぜひ一度チャレンジしてみていただきたいですね。

高山:ますますのご活躍を期待しております。どうもありがとうございました。

門川:こちらこそありがとうございました。