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盲ろう者 自立支える家
~扉、階ごとに色分け・職員と触手話~
~天王寺 全国初のグループホーム~

読売新聞夕刊 2017年3月17日(金)掲載

目と耳が不自由な「盲ろう者」を対象とした全国初のグループホームが今月、大阪市天王寺区にオープンした。点字案内板を備え、階ごとに扉の色を変えるなど工夫を凝らし、盲ろう者の自立生活をサポートする。運営するNPO法人は「全国のモデルにしたい」と願っている。



新生活期待

「どんどん外に出かけて、見識を広げ、多くの仲間と出会いたい」2月中旬、「すまいるレジデンス for the Deaf Blind」(5階建て)の完成式典で、入居予定の中本謙次さん(64)(堺市西区)は、新生活への期待を膨らませた。

中本さんは生まれつき耳が聞こえず、網膜色素変性症で二十数年前から視力も失った。同居する両親とは手のひらに指で文字を書いて会話するが、2人とも80歳を超え、最近は「ご飯」「風呂」などと単語でしかやり取りしなくなった。

そんな時、パソコン習得などを目的に通っていたNPO法人「視聴覚二重障害者福祉センターすまいる」(大阪市天王寺区)が、盲ろう者が支えあいながら自立生活するグループホームを計画していることを知り、「立派に自立生活する姿を見せて、両親を安心させたい」と、入居を決めた。



点字案内板

同ホームには計10部屋(各約8平方メートル)あり、家賃は光熱費込で6万5000円から7万5000円。中本さんら5人がすでに入居し、2人も近く住み始める予定だ。約1億4000万円の建設費は、街頭での寄付や募金活動などで賄った。

部屋のインターホンが鳴ると、ベッドやリモコンが振動して来客を知らせる。1階エレベーターの扉の横には、部屋や共同トイレの位置を点字で示す案内板を配置。弱視の人がどの階にいるか認識しやすいよう、階ごとに扉がオレンジや青、緑などに色分けされている。

管理室には「すまいる」の職員ら40人が24時間交代で勤務。入居者は職員の手に触れながら手話をする「触手話」で会話する。風呂や洗濯など身の回りのことは、できるだけ自分でするよう努力してもらう。食堂があり、実費を負担すれば食事も提供される。中本さんも、両親に頼りきりだった掃除や洗濯を、すこしづつ覚えるつもりだ。



両親が世話

「すまいる」がグループホームの検討を始めたのは2005年。利用者から「同居する親が亡くなったらどうしたらいいのか」と不安の声が寄せられたのがきっかけだった。

社会福祉法人「全国盲ろう者協会」(東京)によると、全国の盲ろう者は約1万4000人(2012年)。これまで専用の入居施設は例がないという。

大半の都道府県で盲ろう者や家族の交流会が毎月開かれ、交流拠点も全国に10か所ある。ただ、それ以外に盲ろう者が外で活動する機会は多くないという。

盲ろう者がいる家庭では、親や兄弟が生活をサポートするのが、かつては当然視されていた。しかし高齢化に伴い、「両親の世話が受けられなくなる時を見越して生活拠点を確保したい」と考える盲ろう者が増えてきたという。

同協会の山下正知事務局長は、グループホームの意義について、「盲ろう者が一般の障害者施設に入ると、意思疎通できずにつらい思いをするケーズもある。地域で盲ろう者のコミュニティができれば、生活情報も入手しやすくなる」と話す。



住民と対話重ね開設

「すまいる」の施設開設までには曲折もあった。当初、大阪市内の別の場所で準備を進めていたが、周辺住民から「交通事故などのトラブルが起きないか」と反対され、いったん購入した用地を売却せざるを得なくなったという。

現在の土地は「すまいる」の事務所から約100メートル。住民の理解が得やすかったこともあるが、盲ろう者の外出時は介助者が同行することや、目が見えていたことのある盲ろう者は、ある程度身の回りのことができることをスタッフが住民に説明するなど、努力を重ねたという。「すまいる」の石塚由美子事務局長は、「盲ろう者は周囲の支援でいろいろなことを徐々に習得していく。その過程を温かく見守ってほしい」と話す。