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支える人 盲ろう者の通訳 石塚由美子さん

2017年8月24日(木)点字毎日掲載

大阪市天王寺区にある「視聴覚二重障害者福祉センターすまいる」で事務局長を務めている。同センターは目と耳の両方に障害がある盲ろう者のための施設。誰かと話すことさえ難しい、盲ろう者たちにとっての貴重な交流の場だ。パソコンの講座が開かれたり、販売用の毛糸の小物作りなども行われている。

盲ろう者のこうした活動には、通訳と移動などを手助けする、通訳・介助者が欠かせない。聴覚障害がある石塚由美子さんもその一人。盲ろう者と話すときは、自分の手を盲ろう者に握らせて手話を触って読み取ってもらう。

午前9時半すぎ。そろそろ利用者が「すまいる」に集まってくる。「石塚です。おはようございます」。一人一人の手を取って、手話であいさつをする。相手の表情や態度にいつもと違ったところがないかも気にする。「会話のタイミングをつかむのが難しいことから、自分の意見や考えを言い出せない盲ろう者は多い」という。孤独感や疎外感を大きくさせないため、ささいな変化でも気になったことは後回しにしないで本人に聞く。できる限り利用者のそばにいられるよう、事務仕事は利用者が帰った後などにまとめて済ませる。盲ろう者とのコミュニケーションに手間取っている通訳者のサポートをしたり、相談に乗ったりと、「支える人を支えるのも事務局長として大事な役割」と語る。

盲ろう者に初めて出会ったのは約30年前。お菓子作りを体験する聴覚障害者向けの講座で講師をしたときのこと。1人だけ、手話で話し掛けても反応を示さない男性がいた。作っているところをよく見てもらおうと参加者に自分の近くに集まるように伝えても、その男性は席から立ち上がろうとしなかった。ケーキを作りを続けながらも、何をしにきたかと、つい男性の姿を目で追っていた。すると男性は隣に座っていた別の参加者に手話で「タバコを吸いたい」と伝えた。「なんだ、手話を使えるんじゃないか」。呆気に取られていると、その2人は手をつないで部屋を出て行った。2人は部屋に戻ってきてからも向かい合い、手を握り合っていた。「正直、面食らいました」と当時の驚きを語った。その男性に話しかけた石塚さんは、彼から目が見えないことを手話で伝えられて、再び驚いた。「目も耳も不自由なヘレン・ケラーのような人が目の前にいる」

耳が聞こえる人たちの話の輪に入れずに、分からなくてもとりあえず分かったふりをしていた自分の姿を思い出した。「空しさに気付いてくれる人がいたら」と思ってきたからこそ、この盲ろうの男性に親しみを感じた。

このことがきっかけで盲ろう者らでつくる「大阪盲ろう者友の会」の活動にボランティアとして関わるようになった。その後、同会のスタッフとして働いた後、「すまいる」の立ち上げに参加。そのまま「すまいる」で働くことになった。石塚さんにとって盲ろう者は「聞こえない自分が助けられるばかりの存在ではないと気づかせてくれた人」だ。

通訳では、言葉や文字以外にもさまざまな情報を伝える。理想は「見えるもの全て」。誰が周りにいるのかや、その場の雰囲気、別の人同士が会話しているのかどうかなども伝える。触って手話を読みとるには時間がかかるため、内容をより簡潔に要約するセンスも求められる。「もっとうまく伝えられたらと模索する。やりがいのある仕事」と笑顔を見せた。【平井俊行】


【プロフィル】
ろう学校を卒業後、地域の私立高校を経て、花園大(京都)を卒業。一女一男の母。