()トップページの本文()

メディア情報

PDFはこちら

仲間がいるから毎日が楽しい

対談 「すまいる」事務局長 石塚 由美子さん
檸檬新報応援団 弁護士 池田 直樹さん


目と耳の両方に障害のある盲ろう者が共に支え合いながら仕事やレクリエーションといった日常生活を送る事務所が大阪市天王寺区にある。NPO法人ヘレンケラー自立支援センターが運営する「すまいる」だ。聴覚に障害を持ちながらも長年、盲ろう者を支え続けてきた石塚由美子事務局長と本紙応援団の弁護士、池田直樹さんに「すまいる」が果たしてきた役割とこれからの活動について語り合ってもらった。


盲ろう者の気持ちに寄り添う支援を重視


池田/今回は、「すまいる」のみなさんの活動を詳しく知りたいと思って対談を申し込ませていただきました。日ごろの取り組みやこれからの目標について幅広くお話しいただければと思っています。


石塚/「すまいる」は1999年に誕生しました。その以前、私は「すまいる」とは別の盲ろう者のための小規模作業所で働いていたのですが、その事業所では、盲ろう者が「危険な目にあわないように」と外での活動を認めない雰囲気がありました。私はそうではなく、外出して登山や和太鼓といったざまざまな活動に取り組みたいと思っている人たちに、もっと寄り添ってサポートしたいと思い、新しい団体を立ち上げたんです。2001年に大阪府からNPO法人として認証を受け、視聴覚二重障害者福祉センター「すまいる」になりました。その後、2018年にヘレンケラー自立支援センター「すまいる」に名称変更しています。


池田/「すまいる」はどのような取り組みをしているのですか。


石塚/盲ろう者のためのグループホームの運営や日中生活の場の提供をはじめ、日常生活の動作訓練、レクリエーションなどを行っています。盲ろう者と家族が抱える生活や教育をはじめとするさまざまな相談や問い合わせへの対応のほか、日常生活動作などの訓練、触手話、点字、IT機器操作の学習も行っています。和太鼓、タップダンス、空手、ヨガ、マッサージなど学びたいことや興味があることに皆さん積極的にチャレンジしています。


日常生活から仕事まで盲ろう者の暮らしを支える


池田/皆さん、本当に楽しそうに仕事に取り組んでいますね。


石塚/自立支援法による就労継続支援B型の事業所でもある「すまいる」は、仲間と共に働く場所でもあります。盲ろう者が自主製品を作り、各地で行われるバザーや障害者作品展で販売しているほか、名札を作ったり、シールを貼ったり、ゴム紐を束ねたりといった受注作業に取り組んでいます。皆さん互いに教え合いながら工夫して作業しています。


池田/盲ろう者の方はどのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか。


石塚/相手の手話を手で触って読み取る触手話を使います。そのほか、指点字という方法もあるのですが、盲ろう者の中には、もともと聴覚に障害を持ち、大人になってから視力も失ってしまう方が多く、その場合は、点字を習得していないため、点字を覚えるまでコミュニケーションは非常に難しいものになります。


池田/「すまいる」には何人の方がおられるのですか。


石塚/17人です。グループホームでは10人が生活しています。鹿児島県、三重県、京都府の舞鶴といった遠方から入所した人もいます。7人は自宅から、車の送迎や電車で通っています。大阪には盲ろう者のための施設が「すまいる」含め2か所しかありません。家の近くに必要なケアを受けることができる施設がないため、遠方から通う人もいます。一人で生活している人もいます。


池田/一人暮らしは大変ではないのですか。


石塚/もともとはご両親とお住まいだったのですが、ご両親が先立たれ、一人で生活しなければならなくなったんです。「すまいる」からホームヘルパーを派遣したり、昼間は「すまいる」で過ごしていただくようにして生活をサポートしています。


池田/家族から独立して生活したいと考えている人もいるのですか。


石塚/両親が齢を重ねていく中で、自分ひとりになったときのことを考えたり、両親が元気なうちに自分が自立している姿を見てもらいたいという思いから家族から離れた生活を希望する人もいます。「すまいる」の方ではないのですが、盲ろう者同士での結婚を希望されたカップルを「すまいる」で支援したこともあります。


盲ろう者と知り合えてよかった


池田/盲ろう者の方が地域の学校で講演することもあるとうかがっています。


石塚/講演前、子供たちは緊張した雰囲気なのですが、講演が終わるとリラックスするのか話しかけてくれるようになりますね。学校を休みがちだった子が、講演の後、「盲ろう者と知り合えてよかった」といったこともありました。前向きに頑張る盲ろう者の姿から何かを感じてくれたのだと思います。


池田/頑張っている人を見て、自分も頑張らなければと刺激を受けたのでしょうね。


石塚/そのように感じていただけたのなら本当にうれしいですね。



IT機器を使ってコミュニケーション


池田/「すまいる」の皆さんが毎日の生活で一番楽しみにされていることは何ですか。


石塚/仲間や友人とメールなどでコミュニケーションを取るときですね。現在は触覚活用型の情報支援機器の機能が充実し、点字の出力機能が備わるようになったことで、盲ろう者もメールやインターネット上の情報にアクセスできるようになっています。そのようなIT機器を使ってメールを交換しています。最初は「メールのやり方を覚えるのは無理」と言っていた人が、友人がメールでコミュニケーションを取っているのを知って急にやる気を出して習得に取り組むといったこともありました。コミュニケーションは本当に大切です。聴覚だけでなく視力も無くしてつらい日々を送っていた人が、「すまいる」で楽しそうに日々を過ごしているのを見ると本当によかったと思います。仲間の存在がなにより大きいのだということを実感しています。


池田/技術の発展がこれまで難しかったことを可能にしているのですね。


石塚/通訳・介助者とは24時間一緒にいられるわけではありませんから、一人でいるときの情報収集にIT機器は必要不可欠なものになっています。しかし、IT機器を使えない人はその恩恵を受けることができません。情報の格差が生じるのは問題と考え、「すまいる」ではIT機器の講習会を定期的に開催しています。また、社会で起こっているニュースを職員が調べて、1か月に2回ほど情報提供しています。この時間を皆さん本当に楽しみにしています。



同行援護制度の更なる充実を


池田/今、行政に求めたいことは何でしょうか。


石塚/同行援護を利用できる範囲の拡充です。現在の制度では運動や通学には認めてもらえません。また、本来、視覚障害者のための制度なので、盲ろう者にはそぐわない面があるのです。盲ろう者は白杖を持っていても単独で歩行するのは困難で、マンツーマンでサポートしてもらわなければなりません。盲ろう者ができることを広げるために同行援護を利用できる範囲を広げていただきたいと思っています。


池田/弁護士会を通じて提案するのも一つの方法かもしれません。高齢者・障害者総合支援センター「ひまわり」が大阪弁護士会にあります。弁護士会を通じて、制度充実の必要性を行政にアピールすることはできると思います。私の事務所は「すまいる」の近くにありますからいつでも相談に来てください。


石塚/お力添えいただけると大変心強いです。よろしくお願いします。いつでも気軽に「すまいる」に遊びに来てください。






スポンサーリンク