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「盲ろう者」全国に1万4000人


目と耳の両方が不自由な「盲ろう者」は、国内で少なくとも約1万4千人に上ることが、初の本格的な実態調査で明らかになった。 盲ろう者は外出などにも支援が必要な場合が多く、社会との接点が持てず、孤立しがちな現状がある。


初の本格調査 県内は204人


「ヘレン・ケラーは有名ですが、日本の当事者の実態はほとんど知られてきませんでした」。社会福祉法人「全国盲ろう者協会」(東京)の 山下正知事務局長は話す。

調査は厚生労働省の事業として同協会が2012年に実施、今年結果が報告された。報告書によると、視覚と聴覚の両方の障害が身体障害者手帳に 記載されている人は、12年10月で1万3952人で県内は204人。65歳以上は全体の8割近くを占める。

一口に盲ろう者といっても、障害に至った経緯や程度は人それぞれでコミュニケーションの方法も異なる。例えば「指点字」と 呼ばれるのは、盲ろう者の指を点字タイプに見立てタッチして言葉を伝える方法。「触手話」は手話をする人の手に触れて、その 動きや形から内容を理解する。

盲ろう者が社会参加するには、そうした独特の方法で通訳したり、移動を補助したりする「通訳・介助員」の存在が欠かせない。 各都道府県がその派遣事業を行ってきたが、実態調査のデータから推計した事業の利用率は6,9%にとどまっていることが分かった。 「各県の予算が限られている上、本人に支援サービスの情報が届いていない。結果的に多くの人が家でひっそり引きこもっている」と山下事務局長。

そうした当事者をつなげる意義は大きい。NPO法人「視聴覚二重障害者福祉センターすまいる」(大阪市)では毎週、情報交換イベントが開かれている。

「最近、話題になっているニュースを紹介していきますね」。司会役の女性が話し始めると、盲ろう者と2人一組になったボランティアが、

その言葉を逐一、触手話で通訳していく。参加者からは時折笑い声が漏れ質問も出る。すまいる代表で盲ろう者の門川紳一郎さんは 「ここへ来て同じ境遇の人がいることを初めて知り、生き方が変わる当事者は少なくない」と話す。

県内では北信地方で、盲ろう者を支援するグループ「ながの盲ろう者りんごの会」が活動。障害のある3人を含む約40人が参加し、 交流会や学習会、レクリエーションなどを企画している。

事務局長の堀口寛美さん(48)は「盲ろう者が社会に出るには、周囲の協力が欠かせない。盲ろう者について多くの人に知ってもらえれば」と 話している。問い合わせは、同会事務局(026・268・0666)へ。


「通訳・介助員」頼みやすい制度を


東京都の村岡美和(41)は生まれつき両耳がまったく聞こえず、28歳のとき病気で視力が徐々に落ちた。「家に引きこもった時期もあった」が、 いまは社会福祉法人「全国盲ろう者協会」の職員として働いている。

わずかに残る視力では、太字のペンで10円玉大に書いた文字なら読めるが、視野が極端に狭く「トイレットペーパーの芯よりも細い筒からのぞいている感じ」という。

毎朝、振動で時刻を知らせる時計で起床。手の感覚を頼りに身の回りのことは自分でこなす。水道の蛇口や冷蔵庫の扉をうっかり閉め忘れても気づかないが、 料理は趣味の一つだ。「香りの情報は早くつかめるので、食べることが好きな盲ろう者は結構います」

室内では天候が分からず自宅を出て初めて雨や風に気づくが、1人で白杖を手に電車で通勤する。事務作業はパソコンの文字拡大ソフトを使い、 他の職員らとの会話では「弱視手話」と呼ばれる視力に配慮した手法の手話を使う。盲ろう者向けの「通訳・介助員」を養成する講習会が各地で 開かれており、月数回は通訳・介助員とともに出張し講師を務めている。

一番の不安は病気。自分では119番できず、夜は通訳・介助員も呼びにくいため、健康管理に神経を使う。「いつでも通訳・介助員を頼める ような制度ができること」が村岡さんの夢だ。