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スピーチ

理事長の発表原稿


皆さん、こんにちは。僕の名前はしん、門川紳一郎です。門川と言うのは手話でこのように表します。今回、初めてフィリピンに来ました。今日、ここに来れたことをとても嬉しく思っています。また、午前中のガルシア氏の発表にはとても感銘を受けました。

僕の通訳の方法を紹介します。先ほど、言いましたように、小さい時から聴覚障害者。4つの時にしょうこう熱が原因で、聴覚障害を持ちました。小さい時から聞こえないということもありまして、発声は不明瞭な部分があると思います。それで今、隣の通訳者が、僕が話しているのと同じことを通訳者の声で皆さんに向かって、発声しています。日本ではこのような方法をよく利用しております。目の方は生まれつきの視覚障害で、原因は不明です。

僕のコミュニケーションの方法ですが、盲ろうの状態になってから、主に筆記、紙に文字を書く筆記と、それから手のひらに文字を書くTOBというものですね。それを主に使っていました。その後、高校三年生の頃だったと記憶していますが、その頃から指点字、今、ここでも何人か使っていますが、指点字をするようになりました。この指点字はですね、今日、ここに来ている福島智さん、彼のお母さんが思いついた方法です。

それからですね、手話があります。手話はもともと目で見るものと思っていたので、興味はなかったのですが、アメリカの全米盲ろう者大会に参加することがきっかけで、触手話があるのを初めて知りました。なので、触手話もあります。日本語の触手話、アメリカの触手話もします。

ところで、今日の僕のテーマ、なんだか小難しいテクノロジーということなんですが。テクノロジーにアレルギーのある人は多いと思います。国によってはテクノロジーがそんなに進んでいない国もまだまだたくさんあります。でも、考えてみたら、手書き、指点字、触手話などなど、盲ろう者が使っているコミュニケーション方法も立派なテクノロジーではないでしょうか。なぜなら、これらの方法を使うことによって、盲ろう者と他者を結びつけることができるからですね。

僕はコミュニケーンは空気のようなものであって、テクノロジーは太陽のようなものだと思っています。これら二つは互いに結びついているから、盲ろう者のコミュニケーション・ライフの中ではとても大事なことだなと思っています。

ところでですね、午前中に、パーキンス盲学校の盲ろうのプログラムを受けて来られたガルシアさんの話がありました。パーキンス盲学校をはじめ、先進国のいろんな盲ろう関係のプログラムから得る情報は多いですね。実は僕もパーキンス盲学校を訪れたことがありました。そこで、何て言えばいいのかわからないけど、カルチャーショック、ものすごい素晴らしいテクノロジーをしている盲ろうの青年に出会いました。盲ろう者でも、コンピュータを組み立てたり、ソフトウェアのプログラムを作ったり、そんなことを趣味にしている人がいたということを初めて知りました。

そこで、点字ピンディスプレイとピンディスプレイを動かすためのスクリーンリーダーなどを活用することで、盲ろう者でもインターネットや電子メールをはじめ、パソコンをフルに使いこなすこともできることを知りました。新しいテクノロジーの発見で、先ほどの盲ろう者のコミュニケーションの方法がローテクノロジーとすれば、コンピュータなどの機器はハイテクノロジーだなと思いました。テクノロジーは限りなく進化し続けています。

これもアメリカで初めて触ったんですが、TTYデバイス。コンピュータを活用して、インターネットで掲示板に書き込んだり、電子メールのやりとりをしたり、すごい進歩です。テクノロジーの、特にハイテクの進化は盲ろう者の情報へのアクセス、それから自己主張の機会が飛躍的に増えたということに結び付くと思います。テクノロジーの恩恵を受けることによって、生活の質も高まってくると僕は思っています。

個人的なことですが、僕は電話が掛けられなかったり、FAXが思うようにできなかったり、テクノロジーの時代の幕開け前まではイライラするような生活でした。それでなんとか、自分の、自分自身でですね、遠方の人、他者とコミュニケーションを取りたい一心で、なにか方法はないものかと探していたことがありました。そんな時に知ったのが、BBS、パソコン通信のこと。だけど、この頃はまだ点字ピンディスプレイというものが日本にはありませんでした。どうしていたかというと、パソコンをモニタースクリーンに大きく映し出して、それをどうにかこうにか読んで理解していたということです。僕の視力からすると、それは長続きしませんでした。

そんな時に点字ピンディスプレイが発売されるということを知り、早速、飛びつきました。点字ピンディスプレイはこれだけでは動かないんです。動かすためのソフトが必要で、ソフトも同時に購入しなければなりませんでした。今から20年以上前の話ですが、それ以来、ピンディスプレイもどんどん新しいものが出てきています。そして、点字ピンディスプレイを使うことで、パソコンで電子メールのやり取りをしたり、インターネットで検索をしたり、いろんな作業ができる。そのおかげで盲ろう者の生活の質が向上したと思っています。アメリカやヨーロッパなどの先進の国に比べたら、日本はずいぶん遅れて、追いついてきたわけですが、これで盲ろう者がコミュニケーションが豊かに取れるようになったと思っています。

さて、盲ろう者のテクノロジーの現状についてです。盲ろう者に特化したというか、盲ろう者が便利に使える機器もまだまだ数が少ないけれども、作られるようになりました。皆さん、すでにご存知の方も多いと思いますが、HIMS社のブレイルセンス。アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド等でも人気のブレイルノート。これらは携帯用の点字と音声に対応した情報受信端末で、僕も重宝しています。これ一台あれば、メール、インターネットはもちろん、読書もできるし、いろんなデータの管理もできるし、大変便利です。

次に、ウィンドウズ対応のスクリーンリーダーと点字ピンディスプレイを合わせて、パソコンを使うのは、もう皆さんも実際に使われている方法ですね。デスクトップとかラップトップがあります。点字ピンディスプレイもいろんな種類があります。

一番新しいのはおそらく、アイフォン、アイパッドの活用ではないでしょうか。これにはお札認識機能がついていたり、SIRIで情報にアクセスができたり、いろいろ他にも高機能なものがたくさんありますね。僕もアイフォンを一時期ちょっとだけ持っていたのですが、捨ててしまいました。アイフォンには最初からボイスオーバーというスクリーンリーダーが搭載されているんですが、日本語の点字には正確に対応していないんです。アルファベット、英語とかフランス語、ドイツ語などアルファベット圏にいる皆さんは幸せだと思います。このアイフォンやアイパッドが日本語でも使えるようになったら、スカイプなどのように、リアルタイムに電話がかけられたりします。

このようにですね、ハイテクを活用すれば、いろんなことができるようになるわけですが、けれどもハイテクにはいろんな限界があります。主な限界点を二つあげますと、経済的な負担ですね。パソコンを点字や音声で使うにはソフトとハードが必要なわけで、すごく人気のあるスクリーンリーダーを例にとると、米ドルで1,500ドルだったかと思います。ジョーズというスクリーンリーダーで1,500ドルぐらいだったと思います。高い。点字ピンディスプレイの安いものでも、米ドルで2,000ドルはします。

二つ目の限界。それはこのようなソフトやハードの使い方を指導できるインストラクター、専門家が非常に少ないということです。健常者の場合ですと、一般に出されている参考書やマニュアルがありますが、イラストを使って、わかりやすく説明がされているし、講習を受けられるところもたくさんあります。だけど、やっぱりテクノロジーは我々にとってはなくてはならない必需品になっているので、なんとかしてテクノロジーのバリアフリーを目指したいと思っています。どうしたらいいのでしょうか。

二つ考えられることがあります。まずは、売り出されている機器類ですね、安く購入できるようにすることです。そして、スマホやタブレットなどの情報機器を開発する段階から音声や点字などのインターフェイスを標準で搭載すること。これをグローバルスタンダードにしてほしいと思います。

アップル社が有名ですね。ウィンドウズはですね、マイクロソフトがあまり積極的ではないです。ラッキーなことに、ウィンドウズ用のスクリーンリーダーを開発している団体があります。NVDAと言いますが、ノンビジュアルデスクトップアクセス。これは素晴らしい取り組みだと思っています。日本語も非常にいいです。このような取り組みがかなり広がるといいなと思います。

バリアフリーITを目指す二番目の取り組みとして、タブレットやパソコン、その他の情報機器の価格を、できれば盲ろう者に特化した制度として制度化してほしい、安くしてほしいということがあると思います。これらのデバイス、テクノロジーは盲ろう者のためのメディアになるわけですから、行政などの立場で、それを制度化するのは当然のことではないかと思っています。

これら1と2、二つを実現するには、我々が運動を起こさないといけないんですね。皆さんで、いろんな国の皆さんで力を合わせて、よりよいテクノロジーの開発を目指して、進んでいきたいと思います。

最後に、今日のこのプレカンファレンスですが、素晴らしい企画だなと感動しています。これがきっかけとなって、フィリピンの国においても盲ろう者の全国的なネットワークが構築されることを期待したいです。

ありがとうございました。